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Plant of Xi’an 秦嶺七十二峪[その2]

小杉 波留夫

こすぎ はるお

サカタのタネ花統括部において、虹色スミレ、よく咲くスミレ、サンパチェンスなどの市場開発を行い、変化する消費者ニーズに適合した花のビジネスを展開。2015年1月の定年退職後もアドバイザーとして勤務しながら、花とガーデニングの普及に努めている。
趣味は自宅でのガーデニングで、自ら交配したクリスマスローズやフォーチュンベゴニアなどを見学しに、シーズン中は多くの方がその庭へ足を運ぶほど。

Plant of Xi’an 秦嶺七十二峪[その2]

2020/03/10

異国で見たことのない植物に出合っても、その植物が何科で何属なのか見当がつく場合が多いのです。それが分かれば、現代の情報化社会は地球の裏にある植物まで私たちの知は及びます。 しかし、その植物が何科なのか、何属なのかが定まらないとインターネットは役に立ちません。AIの植物画像鑑定が中国ではやっていましたが、今のところ信用できるか疑問です。本来、頼りになるのはアナログの図鑑ですが、すべての植物を網羅するのは無理な話です。最後の手段は人脈です。中国科学院の先生に画像を送り調べてもらいました。

その植物は、秦嶺山脈の渓流に沿った湿った木陰の下に生えていました。これも私の辞書にありません。

背丈の高さは、50~80cmほど。葉は濃い緑色をしていて、地下茎から茎を立ち上げ葉が付きます。葉柄は、4~5cmぐらいでした。葉の周囲に鋸歯はなく、尖ったハート形をしています。葉の大きさは、幅14cm、長さ12cmほどあります。

花弁は明るい黄色で3枚、がくは緑で同じく3枚。花の大きさは直径で2~2.5cm前後です。読者の皆さんは、この植物が何科で何属だか分かりますでしょうか?

中国から来た鑑定結果にはまさかと思いました。ウマノスズクサ科サルマ属だというのです。ウマノスズクサ科(Aristolochiaceae)には、ウマノスズクサAristolochia 属、カンアオイAsarum属があり、好きな一群ですからそれらの特徴は熟知している思っていたのです。サルマSaruma属は、頭の片隅にもありませんでした。

ウマノスズクサは全草が腎臓毒であるアリストロキア酸を持ち、落葉性のつる植物です。そしてそれぞれの種が奇妙奇天烈な花を付けます。

写真は、Aristolochia manshuriensis(アリストロキア マンシュリエンシス)です。それは東アジア北部、中国東北部、シベリアなどに分布します。

カンアオイAsarum属は、同じようにアリストロキア酸を含み、常緑および落葉性、地下茎を持ち、地表から根出葉を出す背が低い植物です。花弁がなくがく片は筒状に融合していますが、上部で普通3つに分かれます。

写真は、カントウカンアオイAsarum nipponicum(アサルム ニッポニカム)。関東地方などに分布します。常緑で背丈は10cm程度です。

サルマ ヘンリーSaruma henryi ウマノスズクサ科サルマ属。和名はタカアシサイシン、中国名が馬蹄香といいます。種形容語のhenryiは、イギリスのプラントハンターAugufine Henryi(オースチン・ヘンリー)にちなみます。

サルマ ヘンリーは、中国中南部の四川省、貴州省、陝西省などに生える固有種であり、国際自然保護連合 (IUCN)では絶滅の危機に瀕した種に指定される植物です。腐植質に富み、湿った半日陰に生えるこの植物に種としての脆弱(ぜいじゃく)性は感じませんでした。恐らくアリストロキア酸を持つ毒草ですから薬草としての採取によって、絶滅の危機に瀕しているものと思います。

サルマ ヘンリーは、花弁が脱落したがくと6個の子房を見るとカンアオイの仲間に見えなくもありません。この種は、カンアオイに近縁であり、ウマノスズクサ科の中で一属一種。最も原始的な種と考えられています。

こちらは、トウゴクサイシンAsarum tohokuense(アサルム トウホクエンセ)ウマノスズクサ科カンアオイ属です。サルマ ヘンリーがどことなく似ているような気持ちになりました。

サルマ ヘンリーを見つけたのは谷の中ほどでした。土が程よく湿り、渓畔林が強い光を遮っていました。そのような原生地の環境は、その植物をどのように育てればよいのかという情報を与えてくれます。これからは渓谷の上流部分に入ります。

川も細くなり、谷が狭まり小さな植物との距離が近くなりました。次週は、秦嶺七十二峪[その3]です。

次回は「Plant of Xi’an 秦嶺七十二峪[その3]」です。お楽しみに。
※著者の都合により、次回の掲載内容が変更になりました。次回は、季節の花のお話です。

JADMA

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